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純資産価額方式のしくみと含み益|土地や株式を持つ会社の株価が高くなる理由

5 時間前
読了時間: 9分

自社株の評価で使う純資産価額は、会社の財産を相続税の評価ルールで洗い直し、そこから負債と「含み益にかかる法人税等の相当額」を差し引いて求めます。含み益のうち差し引けるのは38%分で、残りの6割強は株価に乗ります。昔から保有する土地や有価証券に大きな含み益があると、税金相当額を差し引いたあとも相当部分が純資産価額に残り、帳簿から想定した株価を大きく上回ることがあります。

※本記事は2026年10月時点の法令・通達に基づいています。

評価方法全体の流れは「非上場株式の評価方法」にまとめています。

純資産価額は「相続税評価の資産−負債−含み益への税金相当」で決まる

財産評価基本通達185は、1株当たりの純資産価額を次のように定めています。

1株当たりの純資産価額=(相続税評価額による資産の合計−負債の合計−評価差額に対する法人税額等相当額)÷課税時期の発行済株式数

算式自体は単純でも、資産の洗い直しには手間がかかります。土地は路線価や倍率方式、建物は固定資産税評価額、上場株式は取引所の価格、非上場の子会社株式はその会社の株価というように、資産を一つずつ相続税評価額に置き換えます。決算書に載っていない借地権や営業権に評価額がつくこともあれば、財産性のない繰延資産や繰延税金資産のように計上しないものもあります。

株数は課税時期で数えます。直前期末ではなく、相続や贈与があった日の発行済株式数から自己株式を除いて使います。本来は課税時期に仮決算をして計算します。ただ、直前期末から資産・負債に大きな増減がなければ、直前期末の数字を基に計算することも明細書の記載方法で認められています。

帳簿価額と相続税評価額の純資産を比べ、評価差額の38%が控除され62%が株価に残ることを示す棒グラフ

含み益の38%は差し引けるが、6割強は株価に残る

相続税評価額で計算した純資産と、帳簿価額で計算した純資産の差を「評価差額」と呼びます。会社が資産を売って含み益を実現すれば法人税等がかかるので、その税金に当たる額を評価額から差し引くのが、通達186-2の「評価差額に対する法人税額等相当額」です。

控除の割合は2026年4月1日以後の相続・遺贈・贈与から37%が38%に改められましたが、これは令和7年度税制改正で創設された防衛特別法人税が、2026年4月1日以後に開始する事業年度から課されるためです。国税庁の説明では、法人税・地方法人税・防衛特別法人税・事業税・特別法人事業税・住民税の税率を合計すると37.7316%になり、これを38%としています。小数点以下を丸めた数字です。評価差額が10億円なら、1%で控除額が1,000万円違います。

昭和の時代に取得した本社用地の例です。

項目

帳簿価額

相続税評価額

土地

5,000万円

2億5,000万円

その他の資産

2億円

2億円

負債

1億5,000万円

1億5,000万円

純資産

1億円

3億円

評価差額は3億円−1億円=2億円です。その38%の7,600万円を控除すると純資産価額は2億2,400万円になり、発行済株式が1万株なら1株2万2,400円と、帳簿上の純資産から計算した1株1万円の約2.2倍です。差はすべて土地の含み益から来ています。

含み損が上回れば評価差額は0です。帳簿価額は税務上の金額です。減価償却累計額や圧縮記帳の積立金は、対応する資産の帳簿価額から差し引きます。

子会社株式の評価では控除しない

評価する会社が非上場の子会社株式を持ち、その子会社を純資産価額で評価する場合、子会社の段階では法人税額等相当額を控除しません(通達186-3)。控除は親会社の段階で1回だけです。持株会社の試算では、子会社の評価額を出す段階でも38%を控除してしまい、二重控除になっている例があります。

負債に入るもの、入らないもの

負債の側にも調整があります。貸倒引当金、退職給与引当金、納税引当金などの引当金や準備金は、決算書に負債として載っていても負債に含めません(通達186)。繰延税金負債も同様です。退職給付引当金が多い会社ほど、純資産価額は決算書の純資産より大きく出やすくなります。

逆に、帳簿になくても負債に含めるものがあります。課税時期の属する事業年度の法人税等のうち課税時期までの期間に対応する未払分、課税時期以前に賦課期日のあった固定資産税の未払分、それに被相続人の死亡によって支給が確定した退職手当金や功労金です。

会社が受け取る死亡保険金も評価に入ります。国税庁の質疑応答事例では、オーナー経営者の死亡で会社が受け取る保険金を生命保険金請求権として資産に計上し、それを原資に支払う死亡退職金と、保険差益にかかる法人税額等を負債に計上するとしています。保険金が退職金を大きく上回れば、その差額が株価を押し上げるので、評価の前に保険の契約内容も確かめます。

3年以内に取得した不動産は「通常の取引価額」で入る

路線価や固定資産税評価額は、市場価格よりかなり低いのが普通です。ただ、最近取得した不動産ではこの差を使えません。通達185は、会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地等と家屋等を、課税時期における通常の取引価額で評価すると定めています。帳簿価額が通常の取引価額に相当すると認められれば、帳簿価額でもかまいません。

2年前に5億円で買った賃貸ビルの例です。路線価などで評価すれば2億円程度にとどまる物件でも、純資産価額の計算では5億円前後で入ります。借入れで不動産を買っても、取得から3年間は時価と相続税評価額の差による引下げは効きません。

貸付用不動産全般については、国税庁が2026年9月18日に「課税時期前5年以内に取得したものは通常の取引価額で評価する」という通達案を公表しました。現在は意見公募中で、2027年1月1日以後の相続・贈与から適用する案です。解説記事によると、案では純資産価額の計算で評価する会社の土地等・家屋等には5年ルールを適用せず、通達185の3年ルールによるとされています。いずれも確定前の案です。

純資産価額がどこまで効くかは会社規模で変わる

純資産価額が最終的な株価にどれだけ反映されるかは会社規模の区分で決まり、小会社は純資産価額か、類似業種比準価額と半々で組み合わせた額の低いほうで、中会社では純資産価額の比重が10%・25%・40%のいずれかになります。大会社は類似業種比準価額が原則です。

先ほどの例で、類似業種比準価額が1株4,000円だったとします。小会社なら、純資産価額の2万2,400円と、両者を半々にした1万3,200円を比べ、低いほうの1万3,200円になります。中会社でLが0.90なら、4,000円×0.9+2万2,400円×0.1=5,840円です。小会社とは約2.3倍の開きがあります。

大会社なら原則どおり4,000円です。純資産価額のほうが低ければそちらを選べますが、含み益の大きい会社でそうなることはまれです。判定の手順は「会社規模区分と評価方式の選び方」で詳しく扱っています。

純資産価額だけで評価される会社がある

原則的評価では会社規模に応じて類似業種比準価額と組み合わせますが、資産の大半が株式や土地の会社は純資産価額で評価します(通達189)。

区分

判定基準(相続税評価額ベース)

評価方法

株式等保有特定会社

総資産に占める株式・出資・新株予約権付社債の割合が50%以上

純資産価額(S1+S2方式も選択可)

土地保有特定会社

総資産に占める土地等の割合が、大会社で70%以上、中会社で90%以上(総資産が一定額以上の小会社を含む)

純資産価額

判定の割合は相続税評価額で計算します。帳簿上は株式の比率が4割でも、子会社株式に含み益があれば5割を超えることがあります。課税時期の前に合理的な理由なく資産構成を変え、特定会社の判定を免れようとしたと認められる場合は、その変動はなかったものとして判定する定めもあります(通達189なお書き)。

S1+S2方式では、資産を株式等とそれ以外に分けます。株式等以外の部分(S1)は、株式等を除いた形に修正したうえで会社規模に応じた通常の算式で評価します。株式等の部分(S2)は純資産価額です。事業の実体がある会社が子会社株式を多く持つ場合は、こちらのほうが低くなることがあります。どちらにするかは納税者が選べます。

このほか、開業後3年未満の会社や、配当・利益・純資産の3要素がすべて0の会社も純資産価額で評価します。

議決権50%以下のグループなら2割減

株式を取得した人とその同族関係者の議決権の合計が50%以下のときは、中会社・小会社の算式で使う純資産価額を80%に減額します(通達185ただし書)。兄弟で株式を分け合い、どのグループも過半数を持たない場合が典型です。2つの特定会社の評価にも同じ減額があります。大会社が純資産価額を選ぶ場合は対象外です。

有識者会議では純資産価額方式の位置づけが見直されている

国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は、2026年8月20日の第5回で見直しの骨子を示しました。一般の会社は、会社規模によらず「残余利益方式」(法人税法上の簿価純資産に、超過利益の現在価値を加減する方法)で評価する方向です。純資産価額方式の出番は、資産保有型の会社など特定の会社に限られます。骨子どおりなら、土地や株式を多く持つ会社は今後も純資産価額方式です。どの会社を資産保有型とするかは、事業承継税制の基準(特定資産の保有割合70%以上、特定資産からの収入割合75%以上)を参考に検討されています。線引きはまだ決まっていません。

9月16日の第6回資料は、第7回以降の想定論点として、土地保有特定会社と株式等保有特定会社を「資産管理会社」として整理統合することを挙げました。純資産価額方式そのものについても、法人税額等相当額の控除の範囲や、3年以内に取得した不動産の扱いなどが今後の論点に挙がっています。議決権50%以下のグループの20%減額は、骨子で廃止せざるを得ないのではないかとされました。第1回の資料には、類似業種比準価額が中央値で純資産価額の約26%にとどまるという国税庁の分析も載っています。

報道では、2026年秋に取りまとめ、12月の税制改正大綱、2027年4月頃のパブリックコメントを経て、2028年1月頃に適用という日程が伝えられています。ただ、骨子自体が最終的には税制改正のプロセスで決めるとしていて日程も内容も確定していないので、現時点の評価は現行通達で行います。数年内に贈与や承継を予定しているなら、改正内容が固まった段階で影響を試算し直し、実行の時期を考える材料にしてください。

当法人に相談する前に手元で確認しておくとよいこと

試算には次の資料を使います。

  • 直近の決算書と法人税申告書(別表五(一)を含む)

  • 固定資産台帳と、所有不動産の所在地・取得時期・取得価額の一覧

  • 保有する上場株式・非上場株式・保険契約の明細

  • 株主名簿(議決権の割合を確認するため)

評価額への影響が大きいのは、3年以内に取得した不動産と、含み益の大きい土地や有価証券です。決算書の純資産だけを見て株式の贈与を進めると、評価額が想定を大きく上回ることがあります。土地・有価証券の含み益と特定会社への該当性は、承継の時期や渡し方を決める前に確かめておきたい項目です。会社規模の判定に使う従業員数・総資産・売上高も、あわせて整理しておくと評価が進めやすくなります。

当法人では、相続税評価額の洗い直しから特定会社の判定まで含めて試算しています。ご相談はお問い合わせページから受け付けています。

参考資料

 
 
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