事業承継で自社株を後継者に移す5つの方法|贈与・相続・売買・持株会社・事業承継税制の比較
事業承継の中心は、経営者が持つ自社株を後継者に移すことです。移し方は大きく5つあり、どれを選ぶかで、かかる税金も、後継者が用意すべき資金もまったく変わります。
この記事では5つの方法を順に比べ、どんな会社にどの方法が合うかを整理します。前提として、自社株の評価額がいくらになるかで選択肢が変わるため、評価の仕組みは「非上場株式(自社株)の評価方法をわかりやすく解説」もあわせてご覧ください。
※本記事は2026年10月時点の法令に基づいています。
5つの方法の全体像
方法 | 主にかかる税金 | 後継者の資金負担 | 向いているケース |
① 生前贈与 | 贈与税 | 贈与税の納税資金 | 株価が低い時期を選べる |
② 相続・遺贈 | 相続税 | 相続税の納税資金 | 承継を急がない、株価が低い |
③ 後継者個人への売買 | 経営者に譲渡所得税 | 株式の買取資金 | 親族外承継、他の相続人との公平 |
④ 持株会社への売却 | 経営者に譲渡所得税 | 持株会社の借入れ | 株価が高く、買取資金を会社の利益で返したい |
⑤ 事業承継税制 | 贈与税・相続税が猶予・免除 | 原則なし | 株価が高く、長く経営を続ける後継者がいる |
以下、順に見ていきます。
① 生前贈与は「時期を選べる」のが最大の利点
生前贈与には、毎年110万円の基礎控除がある暦年課税と、累計2,500万円まで贈与税がかからない相続時精算課税があります。相続時精算課税では、2024年から別枠で年110万円の基礎控除も使えるようになりました。
生前贈与の強みは、株価が下がったタイミングを選んで渡せることです。役員退職金を支給した期や、大きな設備投資で利益が落ちた期の翌年は、類似業種比準価額が下がりやすく、贈与の好機になります。
注意点は、暦年課税の贈与のうち相続開始前7年以内(2024年以後の贈与から、3年から段階的に延長)のものは相続財産に足し戻されることです。相続時精算課税で贈与した株式は、贈与時の評価額で相続財産に加算されます。株価が今後上がる見込みなら、早めに精算課税で移しておく考え方もあります。
② 相続は手間が少ないが、遺産分割でもめやすい
何もしなければ、自社株は相続で後継者以外の相続人にも分散する可能性があります。遺言で後継者に集中させても、ほかの相続人の遺留分(最低限の取り分)を侵害すれば、金銭での支払いを求められます。
自社株が財産の大半を占める経営者の場合、この遺留分が承継の最大の障害になりがちです。経営承継円滑化法には、後継者に贈与した株式を遺留分の計算から外す「除外合意」などの民法の特例があります。推定相続人全員の合意と経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可が必要です。
③ 後継者個人への売買は公平だが、資金の壁が高い
後継者が株式を買い取れば、ほかの相続人との公平は保ちやすくなります。経営者側には譲渡益に対して20.315%の所得税・住民税がかかります。
問題は後継者の資金です。親族間の売買でも税務上の時価で取引する必要があり、時価より著しく低い価格で買うと、差額に贈与税がかかります。役員や従業員への承継(親族外承継)で使われることが多い方法です。
④ 持株会社への売却は株価が高い会社の選択肢
後継者が設立した持株会社が銀行から借り入れ、経営者から株式を買い取る方法です。借入れは、事業会社からの配当で返済していきます。
経営者は売却代金を現金で受け取れるため、自身の相続税の納税資金や老後資金も確保できます。一方で、持株会社が「株式等保有特定会社」に当たると、将来の持株会社株式の評価が高くなる点や、売買価格の妥当性を税務上説明できるようにしておく点に注意が必要です。
⑤ 事業承継税制は株価が高い会社ほど効果が大きい
事業承継税制(法人版)は、後継者が贈与・相続で取得した自社株にかかる贈与税・相続税の納税を猶予し、一定の要件のもとで免除する制度です。特例措置を使えば、発行済株式の全部について、税額の100%が猶予の対象になります。
特例措置を使うには、都道府県に「特例承継計画」を提出しておく必要があります。提出期限は令和8年度税制改正で2027年(令和9年)9月30日まで延長されました。一方で、特例措置の対象となる贈与・相続は2027年12月31日までに行うものに限られ、この期限は延長されていません。検討中の会社は、計画の提出を先に済ませておくのが安全です。
ただし、猶予を受けた後も、後継者が代表者であり続けること、株式を保有し続けること、毎年の届出などの要件があり、満たせなくなると猶予税額と利子税を納めることになります。将来M&Aで会社を売る可能性がある場合は、慎重に判断する必要があります。
方法を選ぶ前にやっておきたい3つのこと
自社株の評価額を試算する。 評価額がわからないと、税金も資金負担も比べられません。
株主名簿を整理する。 名義株や所在不明の株主がいると、どの方法でも手続きが止まります。
後継者と、渡す時期の目安を決める。 5年後か15年後かで、取れる選択肢が変わります。
実際には、1つの方法だけで完結することは少なく、数年かけて贈与と売買を組み合わせたり、持株会社と事業承継税制を併用したりします。
税理士法人agileの事業承継支援
税理士法人agileでは、自社株評価をもとに複数の承継パターンの税額と資金繰りを試算し、比較したうえで方針を決めるお手伝いをしています。代表2名は公認会計士・税理士で、株式価値評価やM&Aの実務経験があるため、親族内承継と第三者への売却を同じ土俵で比べられるのが強みです。
