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類似業種比準価額のしくみ|3つの要素と株価が上がる局面、見直しの行方

5 時間前
読了時間: 9分

利益が大きく出た翌期に、自社株の評価額が想定以上に上がることがあります。原因になりやすいのが類似業種比準価額で、国税庁が公表する上場同業の株価に、自社と同業の「配当・利益・純資産」の比率を掛け、会社規模に応じて0.7・0.6・0.5のいずれかを掛けて求めます。3つの要素を直前期末までの決算の数字から取るため、前期の利益がそのまま評価額に響きます。一方、国税庁の有識者会議では2026年8月以降、この方式を「残余利益方式」に置き換える方向で議論が進んでいます。ただし確定した改正ではありません。

評価額は利益や配当だけでなく、業種目の選び方や会社規模でも動きます。

※本記事は2026年10月時点の法令・通達に基づいています。

計算式は「上場同業の株価×自社と同業の比率×斟酌率」

根拠は財産評価基本通達180で、算式は次のとおりです。

1株(50円)あたりの類似業種比準価額=A×(B/b+C/c+D/d)÷3×斟酌率

記号

中身

A

類似業種の株価(国税庁が業種ごとに公表)

B・b

1株あたりの配当金額(B=自社、b=類似業種)

C・c

1株あたりの利益金額(同上)

D・d

1株あたりの純資産価額(帳簿価額ベース、同上)

斟酌率

大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5

通達の算式では、自社の数値を丸囲みの記号(Ⓑ・Ⓒ・Ⓓ)、類似業種の数値をB・C・Dで表します。本記事では読みやすさを優先し、自社を大文字、類似業種を小文字で書いています。

カッコの中では、配当・利益・純資産のそれぞれについて自社が類似業種の何倍かを出し、3つを平均します。この平均を通達では「比準割合」と呼び、1.00なら同業平均並み、0.50なら半分の水準です。Aに比準割合を掛けた金額が、上場同業を基準にした自社株の価額になります。

類似業種の株価A×比準割合(配当・利益・純資産の平均)×斟酌率で類似業種比準価額を求める図

斟酌率は、上場会社との流通性や事業規模の差を織り込んで評価額を割り引く割合で、小さい会社ほど割引が大きくなります。

計算上の株数は、資本金等の額を1株50円として換算したものです。1株あたりの資本金等の額が500円の会社では、算式で出た金額を10倍して実際の1株あたりの評価額に戻します。3要素の重みは平成29年1月1日以後1対1対1で、それ以前は利益だけ3倍(1対3対1)でした。

3つの要素は会計の数字ではなく税務の数字から取る

B・C・Dは、法人税の申告書の数値を基礎にします(配当は株主総会の決議内容などもあわせて確認します)。決算書の当期純利益や純資産をそのまま当てはめるわけではありません。

配当(B)は、直前期末以前2年間の配当金額の平均です。記念配当や特別配当のように毎期続くと見込めないものは除きます。無配の会社ではB/bが0になり、÷3はそのまま残るため、利益と純資産の2要素だけで比準割合が決まります。有識者会議の資料では、国税庁が分析した700社のうち82.4%が直前2期とも無配でした。

利益(C)は、直前期の法人税の課税所得をもとにします。固定資産の売却益のような非経常的な利益は除き、受取配当金のうち益金不算入とした額や、損金に算入した繰越欠損金の控除額は足し戻します。直前期の金額と、直前期・直前々期の2年平均のどちらかを選べるので、低いほうを使えます。マイナスになった場合は0です。

純資産(D)は直前期末の資本金等の額と利益積立金額の合計で、どちらも法人税法上の金額です。土地や有価証券の含み益は反映されないので、含み益を多く抱える会社では、類似業種比準価額が純資産価額を大きく下回りやすくなります。

業種区分の選び方で、比べる相手が変わる

自社がどの「業種目」に当たるかで、比べる相手のAとb・c・dが決まります。国税庁は毎年「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について」という通達で、業種目ごとの株価と3要素の数値を公表しています。令和8年分は2026年6月5日に出され、その後も月ごとの株価が追加されています。

業種目は日本標準産業分類をもとに大分類・中分類・小分類の3段階に分かれ、自社の取引金額の50%超を占める事業で判定します。単一の業種で50%を超えない会社には、別の判定方法が定められています(通達181-2)。実務で判断が分かれやすいのは、売上が複数の業種にまたがる会社です。事業別の売上データで業種目ごとの取引金額を確かめ、候補になる業種目ごとに評価額を試算して比べます。なお、小分類に当たる会社は中分類を、中分類に当たる会社は大分類を選ぶこともでき、上の分類で評価額が低くなるならそちらを使えます。

類似業種の株価Aにも選択の余地があります。次の5つのうち、最も低いものを使えます(通達182)。

  • 課税時期の属する月の平均株価

  • その前月の平均株価

  • 前々月の平均株価

  • 前年の平均株価

  • 課税時期の属する月以前2年間の平均株価

課税時期の直前に株式市場が急上昇していても、前年平均や2年平均のほうが低ければ、そちらで計算できます。

会社規模(大・中・小)を判定するときの業種区分は、業種目とは別のものです。規模判定では「卸売業」「小売・サービス業」「それ以外」の3つに分け、従業員数・総資産価額・取引金額で区分します。この区分で斟酌率が決まり、類似業種比準価額と純資産価額の組み合わせ方も変わります。

会社規模

斟酌率

評価額の求め方

大会社

0.7

類似業種比準価額(純資産価額のほうが低ければそちら)

中会社

0.6

類似業種比準価額×L+純資産価額×(1−L)。Lは0.90・0.75・0.60(算式の類似業種比準価額を純資産価額に置き換えることも可)

小会社

0.5

純資産価額、または類似業種比準価額×0.50+純資産価額×0.50の低いほう

規模の判定基準は「会社規模区分と評価方式の選び方」で、評価方式全体の流れは「非上場株式の評価方法」で解説しています。

株価が上がりやすいのは、利益が伸びた翌期と、配当・利益がともにゼロになったとき

仮の数値で動きを確かめます。1株あたりの資本金等の額が50円の大会社で、類似業種の株価Aが500円、b=5.0円、c=40円、d=400円とします。自社は無配(B=0)で、C=60円、D=300円です。

比準割合=(0÷5.0+60÷40+300÷400)÷3=(0+1.50+0.75)÷3=0.75 類似業種比準価額=500円×0.75×0.7=262.5円

翌期に利益が倍の120円になると、C/cは1.50から3.00に、比準割合は0.75から1.25に上がり、評価額は500円×1.25×0.7=437.5円です。利益の倍増で、評価額は262.5円から約1.7倍になります。

計算例のほかにも、評価額が上がりやすい局面がいくつかあります。

  1. 本業の利益(非経常的な利益を除いた課税所得)が大きく伸びた期の翌期

  2. 配当を始めた、または増配した期の翌期(Bが0から正に変わる)

  3. 利益を内部留保し続け、利益積立金が積み上がったとき

  4. 同業の上場会社の株価が長期にわたって上がったとき(2年平均まで上がる)

  5. 配当・利益がともに0になり、「比準要素数1の会社」に当たったとき

5は、利益が出ていないのに評価額が上がるケースです。直前期末の配当・利益・純資産のうち2つが0で、直前々期末でも2つ以上が0の会社は、比準要素数1の会社として扱われます。評価は原則として純資産価額になり、類似業種比準価額を併用しても割合は0.25までです。赤字続きで類似業種比準価額は下がっていても、評価方式が純資産価額寄りに切り替わる結果、評価額が上がることがあります。

反対に、役員退職金を支給した期は課税所得が大きく減り、翌期の評価額も下がります。ただし不相当に高額な部分は損金に算入されないため、評価額を下げる目的だけで支給額や時期を決めるのは危うい判断です。単年度の利益の増減で評価額がここまで動く点は、見直し議論でも論点になっています。

有識者会議では、類似業種比準方式を残余利益方式に置き換える方向で議論が進んでいる

国税庁は2026年4月20日から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開いています。背景には、会計検査院が令和5年度決算検査報告で、非上場株式の評価が適切になるよう検討を求めたことがあります。第1回の資料では、類似業種比準価額の中央値は純資産価額(相続税評価額ベース)の約26〜27%にとどまり、無配の会社が多いため配当の要素が機能していないとも書かれています。

8月20日の第5回で示された「骨子」の方向性は、おおむね次のとおりです。

  • 大・中・小の会社規模区分を廃止し、評価方式を原則一本化する

  • 原則的評価方式は、簿価純資産に数年分の超過利益の現在価値を加減する「残余利益方式」とする

  • 簿価は法人税法上の帳簿価額を使う方向で検討する

  • 純資産価額方式は、資産保有型の会社など「特定の評価会社」向けの方式に位置づけ直す

  • 配当還元方式は、適用する株主の範囲を見直したうえで残す

類似業種比準方式について、骨子の資料は理論的な根拠や実証的な裏付けに欠けるとし、存置は難しいのではないかと問題提起しました。

残余利益方式の下敷きは、企業価値評価で使われる「残余利益モデル」です。簿価純資産に株主が通常期待する利回り(還元率)を掛けて「当然稼ぐべき利益」を求め、実際の利益との差(残余利益)を純資産に加減します。上回れば加算、下回れば減算です。9月16日の第6回では、利益を過去5年平均とし、残余利益を5年分加算して6年目以降は加算しない計算案が示されました。

現行の類似業種比準方式と検討中の残余利益方式を比較した表

同じ第6回では、還元率を8%と仮定した試算も出ています。1,378社の申告データで、現行の評価額は純資産価額を100とした中央値で大会社38.2、中会社53.4、小会社63.8でした。残余利益方式に置き換えた場合、大会社は斟酌率を0.7と仮定しても現行比で約50%上がり、小会社は斟酌率1.0でも約2%下がりました。規模による評価額の差は縮まります。

もっとも、還元率8%は試算用の仮定で、斟酌率の水準も「次回以降に議論」とされています。スケジュールについては、2026年秋に取りまとめ、2026年12月の令和9年度税制改正大綱に盛り込み、2028年1月頃からの適用を目指すと報じられていますが、いずれも予定の段階です。

いま贈与や相続を控えている場合、拠りどころになるのは現行の通達だけです。そのうえで、役員退職金などで単年度の利益を下げて評価額を抑える方法は、5年平均の利益を使う新方式では効きにくくなると考えられます。第6回の試算では大会社を中心に評価額が上がっており、承継の時期を考えるときの材料になります。事業承継税制の特例措置の期限(2027年12月31日)とも時期が重なるので、「事業承継税制の特例措置の期限と準備」もあわせてご覧ください。

当法人に相談する前に手元で確認しておくとよいこと

類似業種比準価額の試算は、次の資料があればかなりの精度でできます。

  • 直近3期分の法人税申告書(別表4・別表5(1)を含む)と決算書

  • 直近2期の配当の実績(記念配当・特別配当の有無)

  • 事業別の売上高の内訳(業種目の判定に使います)

  • 期末の従業員数(パート・アルバイトの労働時間がわかるもの)

  • 贈与や相続を想定している時期

当法人は、相続税・贈与税のための自社株評価に加え、M&Aにおける株式価値評価にも携わっています。業種目の判定や、現行の評価額と見直し後に想定される水準の比較を行いたい場合は、お問い合わせページからご連絡ください。

参考資料

 
 
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