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種類株式で事業承継を設計する|議決権・拒否権の分け方と評価・導入手続

5 時間前
読了時間: 10分

種類株式を使うと、自社株を「財産としての価値」と「会社を動かす決定権」に分けて渡せます。後継者には議決権のある株式を、ほかの子どもには議決権のない株式を相続させれば、遺産の配分と経営の安定を両立させやすくなります。ただし、相続税の評価では議決権の有無は原則として考慮されないため、種類株式にしても税負担の総額はほとんど変わりません。検討の順番としては、税額の比較より先に、誰にどの権限を残すかを決めることになります。

株式を複数の子に分けざるを得ないオーナー経営者の方に向けた記事です。

※本記事は2026年10月時点の法令・通達に基づいています。

会社法108条は9つの項目で株式の内容を変えられ、承継で使うのは主に4つ

普通の株式は、どの株主が持っても配当を受け取る権利や議決権の中身が同じです。これに対して、定款で内容を変えた株式を発行できる仕組みがあり、内容の違う株式を「種類株式」と呼びます。会社法108条1項は、内容を変えられる項目として次の9つを挙げています。

号

内容を変えられる項目

一般的な名称

事業承継での主な使い道

1号

剰余金の配当

配当優先株式など

議決権のない株式を持つ相続人に配当で報いる

2号

残余財産の分配

残余財産優先株式など

解散時の取り分を調整する

3号

株主総会で議決権を行使できる事項

議決権制限株式(無議決権株式)

後継者以外の相続人に財産だけを渡す

4号

譲渡に会社の承認が要ること

譲渡制限株式

多くの中小企業は全株式に設定済み

5号

株主が会社に取得を請求できること

取得請求権付株式

非後継者が将来換金する出口にする

6号

一定の事由で会社が取得できること

取得条項付株式

死亡や退職を事由に会社が株式を回収する

7号

株主総会の決議で会社が全部を取得すること

全部取得条項付種類株式

少数株主を整理する

8号

決議に種類株主総会の承認が要ること

拒否権付株式(黄金株)

先代が重要事項に拒否権を残す

9号

種類株主総会で取締役・監査役を選ぶこと

役員選任権付株式

非公開会社だけが使える

事業承継で検討の候補に上がるのは、このうち3号の議決権制限株式、8号の拒否権付株式、6号の取得条項付株式、それに1号の配当優先の4つです。単独で使うより、無議決権株式に配当優先を付けるように組み合わせることが多くなります。9号は使える会社が限られます。公開会社と指名委員会等設置会社では発行できません(同条1項ただし書)。

議決権制限株式は、後継者以外の相続人に「財産」だけを渡す道具になる

典型的な場面を考えます。オーナーの財産の大半が自社株で、長男が後を継ぎ、長女は会社に関わっていないケースです。株式をすべて長男に相続させると、長女の遺留分(法律で保障された最低限の取り分)を侵害するおそれがあります。では半分ずつ分ければよいか。それでは議決権まで半々になり、長男は単独では取締役の選任も決められなくなります。

解決策の一つが、発行済株式の一部を無議決権株式にして長女に渡す方法です。長女は株主として配当や将来の売却代金を受け取れますが、経営には口を出せません。議決権のある株式はすべて長男が持ち、会社の意思決定を一人で行えます。ただ、長女から見れば、配当が出なければ受け取るものがなく、売ろうにも買い手は会社か後継者くらいしか見当たらない株式です。このため、配当優先を付けたり、一定時期以降に会社へ買取りを求められる取得請求権を付けたりする組み合わせもよく使われます。

議決権を外しても、株式の財産的な価値は残ります。遺留分は株式の価値で計算します。議決権のない株式を渡したから遺留分の問題が消える、とはいきません。配当優先を約束すれば、その配当は毎年会社から出ていき、業績が落ちた年にも資金繰りの重荷として残ります。

拒否権付株式(黄金株)は先代の保険になるが、持ち主の管理を誤ると会社が止まる

拒否権付株式は、取締役の選任や合併など、定款で決めた事項について、その株式を持つ株主の種類株主総会の承認がなければ決議の効力が生じない株式です。1株でも持っていれば拒否権を行使できることから「黄金株」と呼ばれます。

株式の大半を後継者に移したあとも、先代が黄金株を1株だけ持ち続ける。よくある使い方です。後継者が独断で重要な判断をしようとしても、先代が歯止めをかけられます。

先代が認知症などで判断能力を失うと、拒否権の対象事項について種類株主総会の決議ができなくなり、会社の重要な手続が止まります。亡くなった場合も厄介です。黄金株も相続財産です。後継者以外の相続人が取得すれば、その人が拒否権を握ります。こうした事態を防ぐため、黄金株には「株主が死亡したとき」などを事由に会社が取得できる取得条項を付けておくのが一般的です。ただし、会社が取得できるのは分配可能額の範囲内です。

国税庁のあらましを見ると、法人版事業承継税制で会社が満たすべき要件の一つに、後継者以外の者が拒否権付株式を持っていないことが挙げられています。つまり、先代が黄金株を持ったままだと、後継者への贈与にこの税制を使えない場合があります。税制を使う予定があるなら、贈与までに黄金株を後継者に移すか、会社が取得しておく段取りを組みます。税制の期限と準備は「事業承継税制(特例措置)の期限と準備」で整理しています。

取得条項付株式と属人的株式は、分散の防止と議決権の調整を補う

取得条項付株式は、黄金株の回収のほか、従業員や役員に持たせた株式を退職時に会社が買い戻す仕組みとしても使えます。株式の分散を防ぐ手段には、相続が起きたときに会社が相続人に株式の売渡しを求める仕組み(会社法174条)もあり、定款に定めておけば、取得条項付株式を発行していない会社でも相続で外に出た株式を会社に戻せます。

種類株式とは別に、非公開会社は議決権や配当について株主ごとに異なる扱いを定款で定めることもできます(会社法109条2項)。「属人的株式」と呼ばれ、たとえば「代表取締役である株主は1株につき10個の議決権を持つ」といった定めが可能です。ただし導入には、総株主の半数以上で、かつ総株主の議決権の4分の3以上の賛成という、通常の特別決議より重い決議が要ります(同法309条4項)。税務の面でも、属人的株式は国税庁の種類株式に関する文書回答の対象外で、評価上の扱いを明示した公表資料は見当たりません。使うなら、評価の扱いを個別に確かめてからにしてください。

相続税評価では、議決権の有無は原則として考慮されない

種類株式の評価について、国税庁は中小企業庁からの照会に答える形で、平成19年2月26日付の文書回答「相続等により取得した種類株式の評価について」を公表しています。対象は事業承継で使われる見込みの高い3類型です。取扱いは次のとおりです。

類型

評価の取扱い

配当優先の無議決権株式

配当優先は、類似業種比準方式で1株当たりの配当金額を株式の種類ごとに計算して反映。純資産価額方式では考慮しない。無議決権であることは原則として考慮しない

社債類似株式

優先配当・発行価額での償還・無議決権など5つの条件を満たす株式は、利付公社債に準じて発行価額で評価

拒否権付株式

拒否権を考慮せず、普通株式と同様に評価

無議決権だからといって評価額が大きく下がることはなく、黄金株に拒否権の価値が上乗せされることもありません。例外として、無議決権株式には一つだけ選択肢があります。同族株主が相続または遺贈で取得した場合に限り、無議決権株式の評価額から5%を差し引き、その差し引いた額を同じ相続で取得された議決権のある株式の評価額に上乗せする方法を選べます。差し引いた分は議決権のある株式に回るので、株式全体の評価額は動きません。要件は次の三つです。

  • 相続税の法定申告期限までに遺産分割協議が確定していること

  • その会社の株式を相続などで取得した同族株主全員が、申告期限までに届出書を税務署長に出していること

  • 評価明細書に計算の根拠を記載して添付すること

贈与で取得した株式には使えません。

仮に、1株の評価額が1万円の会社で、長男が議決権のある株式800株、長女が無議決権株式200株を相続したとします。長女の株式は200万円から5%の10万円を差し引いて190万円、長男の株式は800万円に10万円を加えて810万円です。二人の合計は1,000万円のままです。相続税の総額にはほぼ影響しません。動くのは相続人間の負担の配分だけです。評価額そのものの決まり方は「非上場株式(自社株)の評価方法」をご覧ください。

事業承継税制の納税猶予も、対象は議決権に制限のない株式に限られます。無議決権株式は対象外です。

評価のルール自体も、いま見直しの途中です。国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は2026年8月に骨子をまとめました。大・中・小会社の規模区分と、類似業種比準方式を中心とする現在の体系をやめ、残余利益方式に一本化する方向です。社債類似株式を発行価額で評価する考え方は骨子にも引き継がれていますが、配当優先株式の計算は類似業種比準方式を前提にしています。無議決権株式の5%調整も現行の体系の上に組み立てられたものなので、見直しに合わせて扱いが変わる可能性があります(当法人の推定です)。報道では、2026年12月の税制改正大綱、2027年4月頃の意見公募を経て、2028年1月頃からの適用が見込まれています。いずれも予定で、確定していません。

導入には定款変更の特別決議と登記が要り、既存株式の転換は全員の同意が前提になる

定款に書かなければ、種類株式は発行できません。会社法108条2項は、種類ごとの内容と発行可能種類株式総数を定款で定めることを求めています。定款の変更には株主総会の特別決議(議決権の過半数を持つ株主が出席し、その3分の2以上の賛成)が必要です(同法466条、309条2項11号)。

株式の用意の仕方は二通りあります。一つは新たに種類株式を発行する方法です。非公開会社では募集株式の発行にも特別決議が要ります。黄金株を先代に1株だけ発行する場合は、この方法をとるのが一般的です。手続も軽く済みます。もう一つは、すでに発行している普通株式の一部を無議決権株式などに変える方法です。会社法に直接の定めはありません。ただ、株主の権利内容を一方的に変えることになるため、登記実務では、変更の対象となる株主の同意に加えて、他の株主全員の同意を求める扱いが通例とされています。株主が多い会社ほど、この同意集めが山場になります。

手続の最後は登記です。発行可能種類株式総数と各種類の株式の内容は登記事項なので(同法911条3項7号)、変更が生じた日から2週間以内に本店所在地で変更登記をします(同法915条1項)。すでに種類株式がある会社は、もう一段の確認が要ります。内容を変えることで既存の種類株主に損害を及ぼすおそれがあれば種類株主総会の決議が要り(同法322条1項)、取得条項を後から付けるならその種類の株主全員の同意が要ります(同法111条1項)。

普通株式を長男、無議決権株式を長女に渡し、黄金株を父が持ち続ける種類株式の承継設計例

当法人に相談する前に手元で確認しておくとよいこと

種類株式の設計には、会社法の手続、相続税の評価、事業承継税制の要件、遺留分の四つが絡みます。黄金株を先代に残せば承継の保険になる一方で、事業承継税制の要件に触れることがある、といった具合です。最初の打合せの前に、次の点を手元で確かめておくと話が早く進みます。

まず定款と登記事項証明書です。すでに種類株式や株券発行の定めがないかを見ます。次に株主名簿で、株主の人数と、名義だけの株主がいないかを確認します。名義株が残っていると、株主全員の同意が必要な手続でつまずきます。整理の方法は「名義株の整理」にまとめました。そのうえで、後継者を誰にするか、ほかの相続人にどの程度の財産を残したいか、先代がいつまで経営に関わるつもりかを、ご家族の間で大まかにすり合わせておいてください。

事業承継税制(特例措置)の利用も視野に入れる場合、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、特例の対象となる贈与・相続の期限は2027年12月31日です。黄金株を残すか、無議決権株式をどれだけ作るかは、この制度を使うかどうかで答えが変わります。

当法人では、株式評価の試算と承継方法の比較を踏まえて、種類株式を使うべきかどうかの段階からご相談に応じています。お問い合わせからご連絡ください。

参考資料

 
 
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