名義株の整理は関係者が元気なうちに|真の株主の判定・確認書・税務の注意点
株主名簿に載っている人と、実際にお金を出した人が違う株式を「名義株」と呼びます。名義株は、名義人と真の株主がともに存命で当時の事情を話せるうちに、確認書と株主名簿の書換えで片付けておくと、費用も手間も小さく済みます。どちらかが亡くなってからだと名義人の相続人の協力が必要になり、税務署や買い手に事実を説明する材料も減っていきます。
とくに発起人が7人以上必要だった時代に設立された会社では、一度株主名簿を確かめておきたいところです。
※本記事は2026年10月時点の法令・通達に基づいています。
名義株の多くは、平成2年改正前の「発起人7人」要件から生まれた
古い会社の株主名簿には、創業者の親族や知人、取引先の名前が並んでいることがあります。平成2年の商法改正(平成2年法律第64号)より前は、株式会社を設立するのに7人以上の発起人が必要でした。創業者1人で全額を出資できても頭数はそろえなければならず、親族や友人、取引先に名前だけ借りるのが当たり前に行われていました。その名残が、いまも株主名簿に残っています。
この改正で発起人の人数要件はなくなって1人でも設立できるようになり(施行は1991年4月1日)、同時に株式会社の最低資本金が1,000万円に引き上げられました。つまり1991年3月以前に設立された株式会社では、設立時の株主名簿に「名前を貸しただけの人」が含まれている可能性を前提に確かめておくのが安全です。
設立後の増資で、名義を家族に分けたケースもあります。相続税対策のつもりで子や孫の名前で株を持たせたものの、本人には知らせておらず、配当も実際には払っていなかったという例は、相続の現場でよく目にします。
真の株主かどうかは、名簿ではなく「お金と権利の流れ」で決まる
名簿に名前があるだけでは、株主とは決まりません。最高裁は昭和42年11月17日の判決で、他人の承諾を得てその名義で株式を引き受けた場合、株主になるのは名義を貸した人ではなく、実際に引き受けた人だと判断しています。旧商法時代の判決ですが、今も実務の出発点です。税務も同じ考え方で、法人税基本通達1-3-2は、同族会社かどうかを判定するときに、名簿上の株主が単なる名義人であれば実際の権利者を株主として扱うと定めています。
では「実際の権利者」はどう判断されるのか。裁判例や税務調査で確かめられるのは、次のような事実です。
判定の視点 | 真の株主が名義人ではないことを示す事実の例 |
出資の資金 | 設立時・増資時の払込資金を、創業者の口座から出している |
名義人の認識 | 名義人が、自分が株主になっていることを知らない、または名義貸しを承諾していただけ |
株券・書類の管理 | 株券や株主総会の書類を、創業者が保管している |
配当の受領 | 配当を名義人が受け取っていない、または受け取った配当を創業者に渡している |
議決権の行使 | 名義人が株主総会に出席したことがなく、委任状も創業者側が用意している |
税務の申告 | 名義人の取得について贈与税の申告がされていない |
一つの事実で決まるわけではなく、出資時の経緯とその後の管理状況を合わせて判断されます。判断が割れやすいのは、設立資金は創業者が出していても、名義人の口座に毎年配当が振り込まれ、名義人が確定申告で配当所得を申告しているようなケースです。こうした状態が長く続くと名義人のほうが真の株主だと見られる可能性が出てくるので、配当の振込先だけでなく、その後の資金の動きや申告の状況まで確かめます。
相続では申告漏れ、M&Aでは取引の停止につながる
ふだんは問題にならなくても、株主名簿と実際の株主の食い違いは、相続や会社の売却で表に出ます。
相続:真の株主の財産として申告しないと、調査で指摘される
創業者が真の株主なら、名義株は創業者の相続財産です。株主名簿上は他人名義なので、遺族が気づかずに申告から漏らしてしまうことがあり、相続税の税務調査で典型的に指摘される項目の一つです。見つかれば、過少申告加算税や延滞税が課されることもあります。
逆に名義人が先に亡くなると、名義人の相続人が「父の名前の株だから自分たちのものだ」と主張することがあります。名義を貸した当時の事情を知る人がいなくなっているため話し合いは難しくなりがちで、株式の分散が進めば後継者が議決権をまとめられなくなります。株主に相続が起きたときの対策は「相続人等に対する売渡請求と株式の分散対策」で取り上げています。
M&A:株主を確定できない会社は、買い手が手を引く
会社を第三者に売る場合、買い手は「誰から何株を買えば会社の全株式が手に入るのか」を確かめます。デューデリジェンス(買収前の調査)で名義株の疑いが見つかると、名義人全員の署名を取りそろえるまでクロージングが延びたり、株式譲渡契約で売り手が重い表明保証を負わされたりします。買い手によっては、株主が確定できないこと自体を理由に検討を打ち切ります。売却先が見つかってから整理を始めても、名義人と連絡が取れない、相続が起きているといった事情で間に合わないことがあるので、株主名簿と実際の出資関係は売却を考え始めた段階で照らし合わせておきます。
整理の方法は「確認書と名義書換」が基本で、争いがあれば買取りに切り替える
分かれ目は、名義人が当時の事情を認めるかどうかです。認めていれば書面で整理し、権利を主張されたり連絡がつかなかったりすれば別の手を使います。
名義人が認める場合は、確認書を取ってから株主名簿を書き換える
名義人が「名前を貸しただけ」と認めているなら、その内容を確認書に残します。後で説明する場面を考えると、口約束では足りません。書面に入れるのは次の4点です。
自分は払込みをしていないこと
配当を受け取っていないこと
株主としての権利を主張しないこと
名義の書換えに協力すること
配当を受け取っていたなら、その項目は事実に合わせて直します。実印で押印し、印鑑証明書を添えてもらいます。名義人が亡くなっていれば、株式を引き継いだ相続人から同じ内容の書面を取ります。分割前なら相続人全員の協力が要ります。
確認書だけで名義株であることが証明できるわけではないので、真の株主の側でも出資の証拠を集めます。設立時の払込みを示す通帳、当時の定款、株主名簿、法人税申告書の別表二(同族会社の判定に関する明細書)の推移が主な材料です。
書類がそろえば、名簿を書き換えます。名義株の是正にそのまま当てはまる規定ではありませんが、会社法133条2項が名義書換えを原則として名簿上の株主との共同請求としていることから、名義人と真の株主が連名で会社に請求する形をとるのが一般的です。見落としやすいのが株券です。定款で株券を発行する旨を定めている会社(株券発行会社)では、株券の扱いも確かめます。昔の定款のまま株券発行会社になっている中小企業は多く、株券を実際に発行していたかどうかで手続が変わります。
名義人が権利を主張する場合は、買い取って決着させる
名義人やその相続人が「自分が株主だ」と譲らないこともあります。訴訟で株主権の確認を求める方法もありますが、時間と費用がかかり、親族間の関係にも響くため、実務では株式を買い取って決着させることが少なくありません。
買い手は後継者個人か、会社自身です。会社が特定の株主から自己株式を買うには、株主総会の特別決議で、取得する株式数や対価の総額を決めます(会社法156条1項、160条1項、309条2項2号)。ほかの株主には、自分も売主に加えるよう求める権利が生じます(同法160条3項)。個人の売り手が会社に株式を売ると、売却代金のうちその株式に対応する資本金等の額を超える部分は、原則としてみなし配当(配当所得)になります。ただし、相続税を納める人が相続した株式を申告期限から3年以内に発行会社へ売る場合などは、みなし配当とせず譲渡所得として扱う特例があります(租税特別措置法9条の7)。
名義人と連絡がつかない場合は、所在不明株主の手続を検討する
名義人の行方がわからないこともあります。そのときは会社法197条の手続が使えます。株主への通知が5年以上続けて届かず、その株主が5年間続けて配当を受け取っていなければ、会社はその株式を競売するか、裁判所の許可を得て売却できます。ただ、これは所在不明株主の株式を売る制度です。真の株主を確定させる手続ではありません。
承継を控えた会社に、5年は長すぎます。経営承継円滑化法の特例を使えば、この期間を1年に縮められます(同法15条、2021年8月2日施行)。対象は都道府県知事の認定を受けた非上場の中小企業で、認定には二つの事情がそろう必要があります。代表者の年齢や健康状態などから経営を続けるのが難しいこと、そして一部の株主の所在がわからないために後継者への承継が難しくなっていることです(同法12条1項1号ホ)。
税務では書類の形式より事実が問われ、贈与と認定されるリスクがある
名義株の整理で最も気をつけたいのは、贈与税です。確認書があっても安心はできません。税務署は書類の文言よりも、お金の出どころや配当の流れといった事実を見ます。
根拠になるのは、国税庁の通達「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」(昭和39年5月23日直審(資)22ほか)です。この通達は、他人名義で財産を取得して対価の支払いがない場合、原則として名義人が贈与を受けたものと推定します。株式などの有価証券で例外になるのは、次の三つがそろう場合などに限られます。名義人が自分の名義になっていることを知らなかったこと。名義人が管理運用も収益の享受もしていないこと。最初の贈与税の申告や決定・更正より前に、取得者の名義に戻したことです。
贈与認定は、二つの方向から起こりえます。一つは、名義人が配当を受け取り、自分の所得として申告していたなど、名義人が実質的な株主と見られる事実がある場合です。このときに名義を創業者に戻すと、名義人から創業者への贈与と見られるおそれがあります。もう一つは、整理の謝礼として名義人に「ハンコ代」を払う場合です。本当に名義株なら名義人には受け取る理由がないので、何の対価なのかが問われます。払い手が個人なら贈与税、会社なら一時所得や雑所得として、名義人の側で課税関係が生じえます。少額でも、この点は変わりません。
買取りで整理する場合は、価格を税務上の時価から大きく外さないことが前提です。後継者個人が時価より著しく低い価格で買えば差額に贈与税がかかり、会社が買う場合も、時価から離れた価格にすると売り手や残る株主の側で課税が生じることがあります。
ここでいう時価は、誰が買うかで変わります。後継者のような同族株主が買う場合の贈与税は買い手の立場で判定するので、原則的評価方式によるのが通常です。個人が会社に売る場合の所得税では、売り手が譲渡直前に少数株主であれば、配当還元方式による価額を時価とできることがあります(所得税基本通達59-6)。その配当還元方式も見直しの対象です。国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は2026年8月に骨子をまとめ、対象を「特定の少数株主」に絞る方向や、委任・代理契約がある者などを対象から外す案を挙げました。内容と時期は今後の税制改正のプロセスで決まります。現時点では未確定です。評価方法の基本は「非上場株式(自社株)の評価方法」で解説しています。
名簿の書換えより先に、真の株主を裏付ける資料をそろえる
名簿だけを先に書き換えるのは避けます。設立時の資料で真の株主を裏付け、名義人の意向を聞いてから手続に入ります。

名義人が多いほど時間がかかります。5人、10人と名義人がいれば、それぞれに事情を説明して確認書をお願いすることになるため、半年から1年がかりの作業になることも珍しくありません。
当法人に相談する前に手元で確認しておくとよいこと
当時の資料が残っているかどうかで、整理の手間はかなり変わります。次の資料を探しておくと、最初の打合せで方針まで話を進められます。
設立時の定款と、設立登記の時期(1991年3月以前の設立かどうか)
現在の株主名簿と、過去数期分の法人税申告書の別表二
設立時・増資時の払込資金の出どころがわかる通帳や記録
配当を払っている場合は、その支払先と振込記録
定款に株券を発行する旨の定めがあるか、実際に株券を発行したか
名義人ごとの存命状況と連絡先
事業承継税制(特例措置)の利用を考えている会社では、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、特例の対象となる贈与・相続の期限が2027年12月31日です。この制度では後継者の議決権割合が要件になり、その判定は株主が確定していることが前提です。名義人が存命で当時の事情を覚えているうちなら、選べる整理方法も多く残ります。承継の方法全体は「事業承継で自社株を後継者に移す5つの方法」で比べています。
当法人では、出資の記録の読み解きから確認書の文案、名簿書換え後の税務処理までを一つの流れでお手伝いしています。「昔、親族に名前を借りたと聞いている」「株主名簿に知らない人の名前が残っている」といった段階でも、お問い合わせからご相談いただけます。
参考資料
e-Gov法令検索「会社法」(第133条、第156条、第160条、第197条、第309条): https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
国税庁「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」(昭和39年5月23日直審(資)22ほか): https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/640523/01.htm
国税庁「法人税基本通達 第1章第3節 同族会社」(1-3-2 名義株についての株主等の判定): https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/01/01_03.htm
中小企業庁「経営承継円滑化法 所在不明株主に関する会社法特例 申請マニュアル」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu/kaisha-hou_manual.pdf
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」第5回資料(骨子): https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260820/pdf/05kijoshiryo_kabukaigi.pdf
衆議院「商法等の一部を改正する法律(平成2年法律第64号)」: https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/11819900629064.htm
